抹茶色の作り方【色鉛筆編】応用テクから質感表現まで“深め”の完全ガイド
前回の基本に加えて、今回はもう一歩踏み込みます。色相・明度・彩度の考え方、紙や筆圧のコントロール、ブレンドの種類、モチーフ別の描き分けなど、作品の完成度を一段引き上げる実践ノウハウをまとめました。配色比率の目安やレイヤー設計、失敗を立て直す手順も載せているので、練習〜本番までそのまま活用できます。
色のしくみから考える「抹茶色」
色相・明度・彩度でコントロールする
- 色相:黄緑寄りにすると若々しく、緑〜オリーブへ寄せると渋みが増す。
- 明度:白や黄色を足すと明るく、茶色やグレーを重ねると落ち着く。
- 彩度:補色寄り(赤み・赤紫み)を微量足すとくすみがつき、自然物に馴染みやすい。
抹茶色は「黄緑(明るさ)+黄色(温かみ)+茶・オリーブ(くすみ)」の三角バランスで決まります。まずはベース(黄緑:5〜7割)を作り、黄色(2〜3割)と茶・オリーブ(1〜2割)で微調整する設計が安定します。
紙と芯質の相性
- 紙の目(テクスチャ):ザラ目は色が乗りやすく層を重ねやすい。ケントなど平滑紙は繊細だがムラが出やすいので薄塗り多層が吉。
- 芯質:油性は粒立ちが見えやすく重ね向き、蝋性は伸びがよくバーニッシングでツヤが出やすい。
- 色移り対策:下に別紙を敷き、手の置き場を固定。仕上げは軽いフィキサチフで定着(試し塗り必須)。
レイヤー設計:配色レシピと比率の目安
標準の抹茶色(汎用)
順番 | 色 | 筆圧 | 面積 | メモ |
---|---|---|---|---|
1 | 黄緑 | 弱 | 全面 | 紙目を残す。平行塗りでムラ防止。 |
2 | 黄色 | 弱〜中 | 8割 | 温かみを追加。端は薄く残す。 |
3 | 茶色 or オリーブ | 弱 | 影のみ | “置く”感覚で少量ずつ。濁り回避。 |
4 | 黄緑 | 弱 | 必要部 | 全体を再統合。色相を黄緑側へ微修正。 |
明るい抹茶(春・お菓子向け)
比率 | 黄緑 | 黄色 | 茶/オリーブ | 白 |
---|---|---|---|---|
目安 | 6 | 3 | 0.5〜1 | 0.5 |
最後に白で軽くバーニッシングすると、ミルキーなやわらかさが出ます。
渋めの抹茶(苔・竹・茶室向け)
比率 | 黄緑 | 黄色 | 茶/オリーブ | グレー |
---|---|---|---|---|
目安 | 4 | 1.5 | 3 | 0.5 |
グレーは影の最深部に微量。全体に広げないのが澄ませるコツ。
ブレンドと質感づくり
ドライブレンド/バーニッシングの使い分け
- ドライブレンド:ティッシュや無彩色鉛筆で馴染ませ、紙目を活かす。自然物に向く。
- バーニッシング:白や無色ブレンダーで圧をかけて層を圧着。陶器や抹茶グラスの艶表現に。
ストローク設計で“自然さ”を足す
- 葉・苔:短い点描+斜めハッチングを交互に。方向を意図的にズラすと人工感が消える。
- 布・和紙:同方向の薄いストロークを多層。ところどころに白地を残し、繊維感を暗示。
- 器の丸み:円の接線方向に沿うストロークで立体を強調。
ケース別ミニ手順(モチーフ別)
苔むした石
工程 | 操作 | ポイント |
---|---|---|
下地 | 黄緑を点描+薄塗り | 地肌(石色)を少し残す。 |
質感 | オリーブを斑点+縁に帯状 | ムラを“敢えて”作る。 |
陰影 | 茶色+ごく薄いグレー | 最深部のみ。全体は汚さない。 |
仕上げ | 黄緑で再統合 | 色相を黄緑側へ戻し生命感を出す。 |
抹茶ラテの表面
工程 | 操作 | ポイント |
---|---|---|
泡 | 白で円を軽くバーニッシュ | 隣接部は塗らず“境界のにじみ”を残す。 |
液面 | 黄緑→黄色→ごく薄い茶 | 楕円のカーブに沿ってグラデ。 |
反射 | 練り消しでハイライト | 一点強く、周囲は弱く抜く。 |
竹の節と葉
- 稈:黄緑ベース→黄色で節間を明るく→オリーブで節の境目を締める。
- 葉:先端を細筆圧でスッと抜き、中央脈を残す。影側に茶を極薄で。
“濁り”と“暗転”のリカバリー
症状別・立て直し術
症状 | 原因 | 対処 |
---|---|---|
どす黒い | 茶の入れ過ぎ | 黄緑→黄色を薄く重ね、白で軽く圧着。 |
ぬり壁感 | 筆圧が早期に強すぎ | 練り消しで表面を起こし、薄塗り多層に切替。 |
粉っぽい | 紙目が立ちすぎ | 無色ブレンダーで軽く撫で、再度薄塗り。 |
実践ドリル:5分練習で差が出る
グラデーション帯(明→暗)
- 左端:黄緑7割+黄色3割(弱圧)
- 中央:黄緑→黄色→オリーブを薄く(中圧)
- 右端:黄緑→オリーブ→茶を点描(弱圧)
各帯をティッシュで一往復だけならす。やり過ぎないほど自然に。
3種の抹茶色スウォッチ
タイプ | ねらい | 比率目安 | ひと言メモ |
---|---|---|---|
ライト | 可憐・春 | 黄緑6:黄3:茶0.5:白0.5 | 白で最後に“ひと撫で”。 |
スタンダード | 汎用 | 黄緑5:黄2.5:茶1.5:オリーブ1 | 影は面でなく点で置く。 |
ディープ | 渋み | 黄緑4:黄1.5:オリーブ3:灰0.5 | 最暗部のみ灰、広げない。 |
配色パレット:抹茶色が映える相棒色
目的別おすすめ組み合わせ
目的 | 抹茶の調整 | 相棒色 | 効果 |
---|---|---|---|
上品 | やや暗め | 臙脂・金茶 | 和の格調が出る。 |
爽やか | 明るめ | 白・若草・水色 | 春夏の清涼感。 |
重厚 | 低彩度 | 藍・墨・銀鼠 | 冬の静けさ表現に。 |
ワークフロー:下描きから仕上げまで
- 下描き:HB〜Bで最小限。消し跡を残さない。
- 配色設計:スウォッチ3種を脇に作り、本番紙で確認。
- 薄塗り多層:ベース→温かみ→くすみ→再統合の順。
- 質感仕上げ:ドライで自然物、バーニッシュで人工物。
- 最終チェック:明暗差・視線誘導・ハイライトの位置。
よくあるQ&A
- Q. なぜ黄緑が先?
— A. 最初に明度を決めると、その後のくすみ量を安全に調整できるからです。 - Q. どの段階で白を入れる?
— A. 最後のまとめ。早い段階で白を強く入れると層が乗りにくくなります。 - Q. くすませたいのに濁る…
— A. 面で塗らず“点・線の最小限”で暗部だけに。全体に広げないのが鉄則。
チェックリスト(仕上げ前の最終確認)
- 明暗差が十分ある(“一番明るい場所”と“最暗部”が見つかる)。
- 色相が黄緑〜オリーブの範囲に収まっている(過度に青・赤に寄っていない)。
- 紙目が必要な場所だけ残っている(不要なザラつきがない)。
- ハイライトが1〜2箇所に絞られている(光源がぶれていない)。
まとめ:設計して重ねる—それが“美しい抹茶色”への近道
抹茶色は、黄緑で明度を設計し、黄色で温かみを添え、茶/オリーブでくすみを点で置く—この順番と配分で安定します。紙と芯質の相性を理解し、薄塗り多層・ドライ/バーニッシュの切り替え、ストローク設計まで意識すれば、和の落ち着きから可憐な春色、苔の渋みまで自在。小さなスウォッチと5分ドリルを習慣化し、配色比率を“自分の黄金比”に育てていきましょう。次の一枚が、今まででいちばん美しい抹茶色になります。